VR技術は、随分長い間研究されていましたが、2010年代に入りやっと実用化され、2017年現在スマホですら楽しめるほど身近なものとなりました。
夢の最新技術を手に入れることが出来た――ということは手放しに喜ぶべきことでしょうが、それを使い続けることの是非に関しては、未だにハッキリしたことはわかっていない部分があります。
たとえば小さな子どもの頃からVRに触れ続けていたら、どうなるかという結論は、残念ながら現段階ではハッキリしてはおりません。
今回は、長期的にVRを使うことについて、ネットメディア「WAEABLE」で紹介された「We need to look more carefully into the long-term effects of VR」(VRの長期的な影響を注意深く見る必要性)記事から、一部を抜粋してご紹介したいと思います。
VRが脳のつながりを変える? 脳を騙すVRの功罪
VR技術は、端的に言えば<脳を騙す>技術です。
VRゴーグルを被って見せられる世界は、当たり前ですが現実ではなく、非現実の世界です。
しかし、私たちの脳は――実際にVRゲームや動画をVRヘッドセットを見て頂いても分かる通り、非現実の世界を現実だと錯覚します。
この錯覚により、人間の脳が変わることが研究段階で判明しています。
「We need to look more carefully into the long-term effects of VR」の記事の中では、人間の脳とマウスの脳がVRを体験することによって、脳の一時的な「再配線」が可能だという結論が出されており、この記事の中で語られている再配線とは、ずばり脳の神経細胞間の結合を変えているということです。
人間の脳は常に再配線されている。それを人為的にVRで引き起こせるか?
人間の脳は常に、再配線されているのをご存知でしょうか?
VRに頼らずとも、人間の脳は何かを思い出す時に、脳の神経細胞間の結合を変えている、再配線しているのです。
この再配線によって人は記憶を思い出し、悪い記憶や感情を取り除くことができるのですが、VRゴーグルなどを用いて疑似体験をすることでも、脳の神経細胞間の結合を変え、悪い記憶を書き換えることが出来るかもしれないのです。
現にとある研究では、ポジティブなVR映像を体験した被験者はそうでない被験者とくらべて、善行を行いやすくなったとされており、VRでさまざまな体験をすることで、人間性を変えることすら可能かも知れないのです。
VRで痛みすらコントロールが可能になる? 脳を騙す「クロスモーダル現象」
VRで体験出来る世界を私たちの脳は”本物の世界だ”と騙されてしまいます。
脳は視覚から得た情報と聴覚などから得た情報を解析して、さまざまな体験・感覚を得ています。
その中でも視覚から得られる情報量は多く、なんと脳が得る情報の80%以上は視覚から得られる情報だと考えられています。
しかし、VRを利用することで、脳が得る情報を擬似的にハックし、VR世界の非現実を現実だと思わせることが出来るのです。
そして、人によってはVR世界で起きている香りや肌触りすら、リアルに実感することが可能です。
この脳がVR世界で起きた物事を嗅覚や聴覚、触覚で感じたと錯覚することを「クロスモーダル現象」と呼びます。
このクロスモーダル現象を用いることで、ロサンゼルスのシーダーズサイナイ医療センターでは、一部の患者に仮想現実(VR)技術を治療として利用し、慢性的な痛みや激痛を軽減させることに成功させており、どう医療センターでの研究では、仮想世界に浸ることで痛みが24%軽減することが明らかになっています。
VRの世界を体験するだけで、麻酔を使わずに痛みが軽減するなんて、素晴らしいことですよね!
しかし、このクロスモーダル現象はその逆の悪い反動もあるのではないかと危惧されています。
軍事利用されるVR 過激な内容の疑似体験がもたらす未来とは?
クロスモーダル現象を利用したVR技術は、幅広い世界で応用されていますが、2015年の段階ですでに米陸軍特殊訓練にVR技術が応用されており、れっきとした軍事訓練にもVRは役立っています。
米陸軍で採用されているVR技術は、兵士にVRにヘッドセットをつけさせ、一挙手一投足まで正確に反映されるゲームのような世界で、さまざまな作戦の訓練を行うもの。
警戒パトロールにあたりつつ、掃討作戦を展開する、市街戦から辺境の砂漠地域での戦闘にいたるまで、実に幅広いシーンの戦闘を疑似体験することができるそうです。
このVRを用いた訓練の中には、生死をかける戦闘も含まれており、VRの世界で擬似的に人を傷つける体験をすることによって、VR訓練を受けた兵士はそうでない兵士よりも、人を傷つけることに抵抗を感じないのではないか……と危惧されています。
ゲーム以上に大人の管理が必要な子どものVR体験
VRで、現実では体験することができない、さまざまな世界を大人も、子どもも気軽に味わうことが出来るようになりました。
しかし、中には小さなお子さんには、不適切な体験ができるVRコンテンツも多数あり、お子さんの健康的な成長を考えた時に、ゲーム以上に親御さんは「VRでどんな体験をさせてあげるか」という部分に気を使わなければならないでしょう。
それこそ子どもの時から、過激なVRコンテンツに長時間触れていたお子さんが、大人になった時にVRで疑似体験したような過激なものを好む人間になっていないとも限りません。
特にVRゲームの中には、過激な表現を含むものが多く、現在は普通のゲームと同じような規制しかされておらず、実際は小さなお子さんでも過激な内容を含むVRゲームをプレイしようと思えば出来る状態にあります。
いずれはVRの過激コンテンツに関しては、規制が入るかも知れませんが、現状ではそういった規制はほとんどないので、親御さんの判断が重要になって来ます。
もちろん、過激なVRコンテンツを長時間体験したからといって、必ずしもそういうタイプの人間になるとはかぎりませんが、VR体験によって脳の再配置が起きてしまうことを考えると、お子さんに体験させるVRコンテンツは親が選ぶべきでしょう。
ただ逆に良質なVRコンテンツを親御さんがお子さんに提供し続けることが出来れば、お子さんの隠れた才能を伸ばすことに繋がるかもしれません。
他の技術同様にVRも使い方次第。
「VRは危険だから使わせない!」のではなく、VRの危険性を正しく知り、VRの良いところをきちんと利用できるように、VRの良い面も悪い面も、しっかりと知っておきましょう。