VRと言えば「ゲーム」や「動画」ばかりが取り沙汰されがちですが、VR研究は幅広分野で進んでおり、特に医学の面ではVRを用いることで、さまざまな痛みを取り除くことが出来るという研究結果が、徐々に出始めています。
ロサンゼルスで行われた研究ではVR体験で痛みを24%軽減という結果に
ロサンゼルスにあるシーダーズサイナイ医療センターでは、VRによって患者の痛みを軽減させる研究が行なわれており、2017年3月に医学誌「ジャーナル・オブ・メディカル・インターネット・リサーチ・メンタル・ヘルス」に掲載された研究論文によると、痛みを緩和するために患者にVRゲームをプレーさせたところ、患者の痛みが軽減したんだそうです。
しかも、痛みの程度を24%も軽減出来たというのですから、驚きです。
また同医療センターの研究では、慢性的な痛みや激痛に悩む患者への痛みもVRを用いることで軽減することがわかっており、医学の現場――特に、アメリカではこのようなVRを鎮痛剤の代替策や補完治療を使用という研究が進みつつあります。
VRが痛みを軽減させるメカニズムは痛みから意識を逸らすから?
そもそも、なぜ痛みを感じる患者がVR体験をすることによって、現実の痛みを軽減させることが出来るのかというと、VRヘッドセットを身につけ、作られた世界に没頭することで、痛みを忘れられることが出来るからだとされています。
ちょっと思い出してみてください。私たちは頭が痛かったり、お腹が痛かったりしても、テレビやゲームなどに熱中している間は、その痛みを忘れますよね?
これは脳が他の物事に熱中してしまい、痛みを感じるスイッチをOFFにするからですが、これと同じことがVRで可能になるかもしれないのです。
痛みを感じていた患者にVRで非現実を体験させる。すると痛みを感じていた患者はVRの世界に没頭してしまい、脳は没頭した世界での出来事に集中し、それまで感じていた痛みを忘れてしまう――というのが、このVRによって痛みを軽減させるメカニズムではないかと考えられています。
私たちの脳は、驚くほどさまざまな影響を受けています。
目に見える情報だったり、自分が考える「痛い」や「怖い」という思い込みだったり、これらの情報が言うなれば「痛みを産んでいる」と行っても過言ではありません。
しかし、あえてVRヘッドセットをかぶせ、現実の視覚情報を遮断し、VRの世界に患者の脳を没頭させることが出来れば、さまざまな情報を分析し、痛みを産んでいた脳を人為的にコントロールし、痛みから意識をそらすことが将来的には可能になるかもしれないのです。
もしかすると未来の医療現場では、誰もが鎮痛剤を使わず、VRヘッドセットをつけるだけで、痛みを和らげることが出来るようになるかも知れませんね。
VRの”錯覚させる力”でPTSDの克服すら可能に?
VRヘッドセットを装着し、日常ではありえない体験をすることが可能です。
これは脳がVRゴーグル越しで見た世界を“本物だ”と錯覚するからであり、このVRの“錯覚させる力”は、痛みを軽減させるだけでなく、トラウマ(PTSD)の克服にも役に立つのではないかと考えられています。
VRで体験する世界は進歩し続けており、今や現実と全く変わらない仮想現実の世界を楽しむことも、難しくなくなりつつあります。
今後、さらにVRで体験できる世界の現実度が上がることで、PTSDを持つ患者が現実では難しいPTSDの克服をVRの世界で行えるようになるかもしれないのです。
VRだからこそ安心して行える「暴露療法」
PTSDやある種の強迫性障害などの治療に用いられる「暴露療法」(別名:エクスポージャー療法)をご存知でしょうか?
この暴露療法とはPTSDなどを抱える患者自らに、自分が恐怖・不安に思っている状況や場所、環境に足を踏み入れさせるという治療法であり、精神科医等の間で行われている治療法の一種です。
もちろん、実際に暴露療法を行う際には、患者がパニックを起こしても大丈夫なように、医師や専門のスタッフが付き添って行われるのですが、現実の世界で暴露療法を行うのは簡単ではありません。
たとえば横断歩道を渡っている最中に交通事故にあってしまい、その事故のトラウマによって、横断歩道が渡れなくなった患者がいるとします。
暴露療法の現場では、トラウマの元凶である横断歩道を患者に渡らせることによって、トラウマを克服させるのですが、トラウマを克服するまでには失敗がつきものです。
万が一、道路横断中にパニックが引き起こされてしまったら、一大事です。
しかし、VRの世界であればトラウマの元凶と全く同じ環境をバーチャル世界で作り上げることが可能であり、自宅や施設にいながらこれまでよりも手軽に暴露療法を行うことが出来るため、今後はVRを用いることでPTSDや強迫性障害などを治療しやすくなるかもしれないのです。
暴露療法にVRを用いるというのは、あくまで一例ですが、同じようにVRを用いることで、アルコール依存症やニコチン依存症などに関しても、依存症から克服しやすくなるのではないかと考えられています。
事実、現在報告されているVRとメンタルヘルスに関する285件の研究の中には、不安障害や恐怖症、社会不安障害、アルコールやニコチンの依存状態にある患者の欲求管理などの治療にVRを用いたものも報告されており、その多くが研究結果に希望が持てる結果となっています。
お子さんの痛みや苦手も、VRを使えば克服が可能に?
VRと言えばゲームや動画を楽しむ、という方向にばかり考えがちですが、鎮静剤代わりやトラウマ克服にまでVRが使えるとは、正直驚きですよね?
これからの時代はゲームだけでなく、医療現場でもVRの活躍が見込まれています。
ただ本格的に医療現場などでVRが用いられるのは、まだまだ先ですが、個人でVRを痛みや苦手克服にVRを用いるのは自由です。
ちなみに痛みの軽減に用いるVR動画には、瞑想系や癒やし系のVR動画が良いとされています。
また小さなお子さんが怖がる予防接種の前にVRゲームなどをさせてあげることで、予防接種の怖さを軽減させることも出来ると言われており、お子さんが苦手な場面で、VRを使うとお子さんの苦手意識を払拭させてあげることが出来るかもしれません。
「VRなんてゲームぐらいしか使い勝手ないでしょ?」と思われていた方も今回の機会にVRの新しい使い方を実践されてみてはいかがでしょうか。
参考記事①:https://www.vrfitnessinsider.com/crush-fear-vr/
参考記事②:https://www.vrfitnessinsider.com/virtual-reality-offers-effective-treatment-mental-health-issues/